「歯医者さんに行かなくちゃいけないのは分かっているけれど、どうしても足が向かない…」
あの独特の匂いや、「キーン」と響く機械の音を想像しただけで、体がこわばってしまう。
そんな経験はありませんか?
こんにちは。
元歯科医師で、現在はフリーランスライターとして活動している田島美和と申します。
私は20年以上にわたり、歯科医師としてたくさんの患者さんのお口の健康と向き合ってきました。
その中で痛感したのは、「歯の治療は痛くて怖いもの」というイメージが、多くの方を歯科医院から遠ざけてしまっているという事実です。
でも、もし「最近の歯医者さんは、昔と全然違って痛くないんですよ」とお伝えしたら、少しだけ興味が湧いてきませんか?
この記事では、元歯科医師の視点から、驚くほど進化している最新の「無痛歯科治療」の技術について、専門用語を使わずに分かりやすくお話しします。
この記事を読み終える頃には、「これなら私でも大丈夫かも」と、安心して歯医者さんを探す一歩を踏み出せるはずです。
どうぞ、肩の力を抜いて、リラックスしてお読みくださいね。
目次
なぜ歯の治療は「痛い」「怖い」と感じるのでしょうか?
そもそも、どうして私たちは歯の治療に「痛み」や「恐怖」を感じてしまうのでしょう。
その原因は、大きく分けて3つあるんですよ。
歯を削るときの物理的な痛み
一番分かりやすいのが、歯を削るときの痛みですよね。
虫歯が歯の神経(歯髄)に近づくほど、削ったときの振動や熱が神経に伝わり、「ズキン!」とした痛みを感じやすくなります。
これは、体の大切な部分を守るための、ごく自然な防衛反応なんです。
麻酔注射そのものの痛み
痛みをなくすための麻酔なのに、その注射自体が痛い、というのもよく聞くお悩みです。
針が歯茎に刺さる「チクッ」とした痛みや、麻酔液が注入されるときの圧迫されるような痛みが、苦手な方は多いですよね。
私も現役時代、患者さんから「麻酔が一番怖いのよ」と打ち明けられることが何度もありました。
「これから何をされるんだろう?」という心理的な不安
実は、痛みを強く感じさせる大きな原因が、この「心」の問題です。
過去の痛かった経験がトラウマになっていたり、目隠しされた状態で何をされるか分からない不安だったり…。
そういった緊張や恐怖が、体をこわばらせ、普段なら気にならないような小さな刺激さえも「痛み」として感じさせてしまうのです。
ですから、患者さんの不安な気持ちに寄り添うことが、痛くない治療の第一歩だと私は考えています。
痛みを和らげる「麻酔」の優しい進化
「どうせ麻酔の注射が痛いんでしょ?」
そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、安心してください。
今の麻酔技術は、皆さんが想像しているよりもずっと優しく、痛みに配慮されたものに進化しているんですよ。
まるで丁寧な下ごしらえをするように、一つひとつのステップで痛みを減らす工夫が凝らされています。
ステップ1:まずは「塗る麻酔」で感覚をマヒさせます
いきなり注射針を刺すことは、もうほとんどありません。
まずは、注射をする部分の歯茎に、ゼリー状やスプレー式の「表面麻酔」を塗ります。
数分待つと、その部分の感覚がじんわりと鈍くなってくるんです。
これによって、注射の針が刺さる瞬間の「チクッ」とした痛みを、ほとんど感じなくさせることができます。
ステップ2:髪の毛のように「極細の針」を使います
昔の注射針と比べて、今の針は驚くほど細くなっています。
製品によっては、蚊の口先よりも細いものもあるんですよ。
細ければ細いほど、歯茎に入る抵抗が少なくなるので、痛みを感じにくくなるというわけです。
ステップ3:「電動麻酔器」でゆっくり優しく注入します
麻酔の痛みで意外と多いのが、麻酔液が入ってくるときの圧迫感による痛みです。
人の手で注射をすると、どうしても力の入り方にムラが出てしまい、急に圧力がかかって痛みを感じさせてしまうことがありました。
そこで登場したのが「電動麻酔器」です。
これはコンピューター制御によって、麻酔液を「そーっと、ゆっくり、一定の速度で」注入できる機械です。
体がびっくりしないように優しく入れてあげることで、注入時の不快な痛みを大幅に減らすことができるようになりました。
ちょっとした心遣い:「麻酔液の温度」
さらに、患者さんのことをよく考えている歯医者さんでは、麻酔液を人肌くらいに温めてから使うこともあります。
冷たい液体が体の中に入ってくると、その温度差で「ヒヤッ」とした刺激を感じてしまうことがありますよね。
そのわずかな刺激さえも取り除こうという、優しい工夫なんです。
こうした小さな配慮の積み重ねが、「あれ?いつ麻酔したの?」と思っていただけるような、痛みの少ない治療につながっていくのです。
そもそも「削らない」という選択肢も。最新の虫歯治療法
痛みを減らす一番の方法は、そもそも歯をあまり削らないことです。
「虫歯=ドリルで削る」というイメージが強いかもしれませんが、近年はなるべく歯を削らずに、虫歯菌だけを取り除く優しい治療法がいくつも開発されています。
ここでは、代表的な3つの治療法をご紹介しますね。
レーザー治療
特定の波長の光(レーザー)を当てることで、虫歯に侵された部分だけを蒸発させて取り除く治療法です。
- メリット
- 健康な歯を削りすぎることがない
- 「キーン」という不快な音や振動がない
- 痛みが少ないため、麻酔が不要な場合もある
- 殺菌効果が高く、治療後の再発リスクを抑えられる
- 注意点
- すべての虫歯に対応できるわけではない(深い虫歯や詰め物の下の虫歯には不向きな場合も)
- 保険が適用されない自費診療になることが多い
ドックベストセメント
これは、銅イオンの力で虫歯菌を殺菌し、歯の自然治癒力(再石灰化)を促すという、少し変わった治療法です。
虫歯を完全に取り切らずに、あえて少し残した上からこのセメントを詰めることで、歯の神経を残せる可能性が高まります。
- メリット
- 歯を削る量を最小限に抑えられる
- 神経を抜かずに済む可能性が高まる
- 治療回数が少なく済むことが多い
- 注意点
- すでに強い痛みが出ている歯など、適応できない場合がある
- 日本ではまだ認可されていないため、保険適用外の自費診療となる
カリソルブ
虫歯になってしまった部分だけを溶かす特殊な薬剤を使って、柔らかくなった部分を専用の器具でそっと取り除く方法です。
ドリルを使わないので、音や振動が苦手な方には嬉しい治療法ですね。
- メリット
- 健康な歯を傷つけずに、虫歯だけを除去できる
- ドリルを使わないので、恐怖感が少ない
- 注意点
- 比較的初期の小さな虫歯が対象
- 治療に少し時間がかかることがある
- こちらも保険適用外の自費診療です
これらの治療法は、まだすべての歯科医院で受けられるわけではありません。
しかし、「歯はなるべく削らない方が良い」という考え方が、今の歯科医療の大きな流れになっていることは、ぜひ知っておいていただきたいなと思います。
「痛くない歯医者さん」と出会うためのヒント
「最新の治療法があるのは分かったけれど、どうやってそんな歯医者さんを探せばいいの?」
そう思いますよね。
最後に、私が患者だったとしたら…という視点で、安心して通える歯医者さんを見つけるためのヒントをいくつかお伝えします。
1. ホームページで「無痛治療」への取り組みをチェックする
まずは、気になる歯医者さんのホームページを見てみましょう。
「無痛治療」「痛みに配慮した治療」といった言葉が書かれているか、探してみてください。
今日ご紹介したような「電動麻酔器」や「レーザー」などの設備を導入していることを、写真付きで紹介している医院は、痛みへの配慮に力を入れている可能性が高いです。
2. 治療前の「カウンセリング」を大切にしてくれるか
私が一番大切だと思うのが、これです。
治療を始める前に、患者さんの話にじっくりと耳を傾けてくれるかどうか。
「痛いのが本当に苦手で…」
「昔、麻酔が効かなくて怖い思いをしたんです」
そういった不安な気持ちを、きちんと受け止めてくれる先生でしょうか。
そして、これからどんな治療をするのか、どんな選択肢があるのかを、あなたが納得できるまで丁寧に説明してくれるでしょうか。
腕が良いのはもちろんですが、あなたの気持ちに寄り添ってくれる先生こそが、あなたにとっての「名医」なのだと私は思います。
3. 質問しやすい雰囲気があるか
カウンセリングの際に、「こんなこと聞いたら変に思われるかな?」と遠慮してしまう必要は全くありません。
「麻酔は、一番痛くない方法でお願いできますか?」
「治療中に痛みを感じたら、すぐに手を挙げて知らせてもいいですか?」
こうした質問に、嫌な顔ひとつせず、笑顔で「もちろんです!」と答えてくれるような歯医者さんなら、きっと安心して治療をお任せできるはずです。
まとめ:もう、一人で痛みを我慢しないでください
今回は、最新の無痛歯科治療についてお話しさせていただきました。
- 痛みの原因は、物理的なものと心理的なものがある
- 麻酔技術は、注射の段階から痛みを減らす工夫がたくさんある
- 歯を「削らない」という優しい治療法の選択肢も増えている
- ホームページやカウンセリングで、医院の姿勢を見極めることが大切
私がクリニックを開いていた頃、何年も歯の痛みを我慢し続けて、ボロボロの状態で駆け込んでこられた患者さんがいらっしゃいました。
初めはとても緊張されていましたが、一つひとつ説明し、痛くないように丁寧に治療を進めていくうちに、だんだんと表情が和らいでいくのが分かりました。
すべての治療が終わったとき、「先生、ありがとう。もっと早く来ればよかった」と涙ぐみながらおっしゃった、その笑顔が今でも忘れられません。
歯の健康は、「歳を重ねてからが本番」です。
美味しいものを美味しく食べられる喜び、家族や友人と心から笑い合える幸せは、健康な歯があってこそ。
この記事が、あなたの「怖い」という気持ちを少しでも和らげ、信頼できる歯医者さんに出会うきっかけになれたなら、こんなに嬉しいことはありません。
もう、一人で痛みを我慢しなくて大丈夫ですよ。
ぜひ勇気を出して、相談の電話を一本かけてみてくださいね。