こんにちは。
元歯科医師の、田島美和です。
なんだか最近、口の中がネバネバする。
歯を磨くと、歯ぐきから血が出やすくなった気がする。
特に悪いところはないはずなのに、舌がピリピリ痛む…。
40代も後半にさしかかり、今まで感じたことのない「お口の不調」に、もしかして…と不安を感じていませんか。
そのお悩み、実は多くの女性が経験する「更年期」のサインかもしれません。
私自身も50歳を前に、同じような体の変化に戸惑った経験がありますから、そのお気持ち、とてもよく分かります。
20年以上、歯科医師として多くの患者さんのお口を拝見してきましたが、特にこの年代の女性から同じようなご相談を数多く受けてきました。
この記事では、長年の臨床経験と自身の体験を踏まえながら、
- なぜ更年期にお口のトラブルが増えるのか
- 具体的にどんなトラブルが起こりやすいのか
- 今日からご自身で始められる対策
これらを、専門用語を一切使わずに、隣でお話しするように丁寧にご説明していきます。
もう大丈夫ですよ。
この記事を読み終える頃には、きっと漠然とした不安が晴れ、具体的な一歩を踏み出す勇気が湧いてくるはずです。
目次
なぜ?更年期に「お口のトラブル」が増える、たった1つの理由
「どうして急に、お口の調子が悪くなったんだろう…」
そう思いますよね。
その答えは、たった一つ。
女性ホルモン「エストロゲン」の減少が、すべての始まりなんです。
エストロゲンは、私たち女性の体を長年、さまざまな形で守ってきてくれました。
お肌のハリを保ったり、骨を強くしたり。
まるでお守りのような存在です。
実はこのエストロゲン、お口の健康にとっても、なくてはならない「守り神」だったのです。
エストロゲンがお口の中で果たしてくれていた、大切な3つの役割があります。
- 骨を丈夫に保つ役割
歯は、歯槽骨(しそうこつ)という顎の骨にしっかりと支えられています。
エストロゲンは、この骨の密度が低くならないように、常に守ってくれていました。 - コラーゲンの生成を助ける役割
歯ぐきのハリや弾力は、コラーゲンによって保たれています。
エストロゲンは、このコラーゲンの生成を助け、若々しく引き締まった歯ぐきを維持する手伝いをしてくれていたのです。 - 唾液の分泌を促す役割
お口の潤いを保つ唾液は、食べかすや細菌を洗い流す「天然の洗浄液」です。
エストロゲンは唾液の分泌をコントロールする役割も担っており、お口の中を常に清潔で健康な状態に保ってくれていました。
更年期とは、この頼りになる「守り神」が、少しずつ私たちの体から不在になっていく時期。
だからこそ、今まで感じなかったようなお口のトラブルが、まるで合図を送るかのように現れ始めるのです。
要注意!更年期世代を襲う「お口の3大トラブル」
では、具体的にどのようなトラブルが起こりやすくなるのでしょうか。
特にご相談が多い「3大トラブル」について、一つずつ見ていきましょう。
トラブル1:歯周病の悪化・進行
「しっかり歯磨きしているのに、歯ぐきが腫れぼったい」
「りんごをかじると血がにじむようになった」
これは、歯周病が進行しているサインかもしれません。
更年期は、エストロゲンの減少によって、歯を支える骨の密度が低下し始めます。
建物の土台がもろくなるのと同じで、歯を支える力が弱くなってしまうのです。
さらに、唾液の持つ洗浄作用が弱まることで、歯周病菌が繁殖しやすくなります。
これにより、歯ぐきに炎症が起きやすくなり、腫れや出血といった症状が現れるのです。
- 歯ぐきが赤く腫れる
- 歯磨きの時に出血する
- 口臭が気になるようになった
- 歯が長くなったように見える(歯ぐきが下がった)
- 歯と歯の間にものが詰まりやすくなった
こんな症状に心当たりがあれば、要注意です。
歯周病は、自覚症状がないまま静かに進行し、気づいた時には歯を失うことにもなりかねない怖い病気なのです。
トラブル2:ドライマウス(口腔乾燥症)
「口の中がパサパサして、話しにくい」
「朝起きると、口の中がネバネバして気持ち悪い」
これは、唾液の量が減ってしまう「ドライマウス」の典型的な症状です。
エストロゲンが減少すると、唾液腺の働きも鈍くなり、唾液が出にくくなります。
唾液は、単にお口を潤しているだけではありません。
細菌の増殖を抑え、虫歯を防ぎ、食べ物の消化を助けるなど、たくさんの重要な働きを担っています。
その唾液が減ってしまうと、
- 虫歯が急に増える
- 強い口臭が発生する
- パンやクッキーなど、水分の少ないものが食べにくい
- 舌がひび割れて痛む
- 口の中が乾燥して、うまく話せない
といった問題が起こります。
「ただ口が乾くだけ」と軽く考えていると、生活の質を大きく下げてしまうことにもつながるのです。
トラブル3:口腔灼熱症候群(バーニングマウス症候群)
「見た目は何ともないのに、舌がやけどをしたようにヒリヒリ痛む」
「唐辛子を食べた後のような、ピリピリした感覚がずっと続く」
もし、あなたがこのような不思議な痛みに悩んでいるなら、それは「口腔灼としょうねつ症候群」かもしれません。
あまり聞き慣れない名前ですよね。
これは、口の中に明らかな原因(傷や荒れなど)が見当たらないのに、舌や唇、上あごなどに焼けるような痛みやしびれを感じる症状です。
歯科医院や内科で検査をしても「特に異常はありませんね」と言われることが多く、原因が分からないために一人で悩んでしまう方が少なくありません。
はっきりとした原因はまだ解明されていませんが、更年期におけるホルモンバランスの乱れや、自律神経の不調、精神的なストレスなどが複雑に絡み合って発症するのではないかと考えられています。
【歯科医師が解説】今日から始められる3大トラブル別セルフケア大全
ここまで読んで、「私のことだ…」と不安になった方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、大丈夫。
原因が分かれば、きちんと対策を立てることができます。
ここでは、ご自宅で今日から始められるセルフケアをご紹介します。
基本のケア:すべてのトラブルに共通する土台作り
まずは、どんなトラブルにも共通する、最も大切な基本のケアです。
これはお口の健康を守るための土台作りだと思ってください。
- 毎日の丁寧な歯磨きとフロスの徹底
当たり前のことのようですが、この時期は今まで以上に丁寧なケアが必要です。
歯と歯ぐきの境目を優しく、一本一本磨くように心がけましょう。
そして、歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間の汚れは、必ずデンタルフロスや歯間ブラシを使って取り除いてください。 - 定期的な歯科検診の重要性
セルフケアだけでは、どうしても限界があります。
症状がなくても、3〜4ヶ月に一度は歯科医院で検診を受け、専門家によるクリーニング(PMTC)を受けることを強くおすすめします。
プロの目でチェックしてもらうことで、自分では気づけない小さな変化にも早く気づくことができます。
歯周病対策:守りのセルフケア
歯ぐきからの出血や腫れが気になる方は、守りを固めるケアをプラスしましょう。
- 歯ぐきを優しくマッサージするブラッシング法
歯ブラシを歯と歯ぐきの境目に45度の角度で当て、力を入れずに小刻みに動かします。
歯ぐきの血行を促進するようなイメージで、優しくマッサージしてあげてください。
ゴシゴシ強く磨くのは逆効果です。 - 歯周病予防に効果的な歯磨き粉の選び方
ドラッグストアにはたくさんの歯磨き粉が並んでいますが、「歯周病予防」や「抗炎症作用」「殺菌作用」といったキーワードが書かれているものを選んでみてください。
例えば、トラネキサム酸やIPMP(イソプロピルメチルフェノール)といった成分が含まれているものがおすすめです。
ドライマウス対策:潤いのセルフケア
お口の乾燥やネバつきには、潤いを補うケアが効果的です。
- 唾液腺マッサージの方法
これは私が患者さんによくお伝えする方法で、とても簡単で効果があります。
食事の前などに行うと、唾液が出やすくなり、食事がしやすくなりますよ。- 耳下腺(じかせん)のマッサージ
耳たぶの少し前、上の奥歯あたりに指をそろえて当て、後ろから前に向かってゆっくりと円を描くように10回ほど優しくマッサージします。 - 顎下腺(がっかせん)のマッサージ
顎の骨の内側のやわらかい部分を、耳の下から顎の先に向かって、指で順番に優しく押していきます。5ヶ所くらいをゆっくり押しましょう。 - 舌下腺(ぜっかせん)のマッサージ
両手の親指をそろえて、顎の真下の骨の内側部分を、舌を押し上げるようにゆっくりと10回ほどグーッと押します。
- 耳下腺(じかせん)のマッサージ
- こまめな水分補給のコツ
一度にたくさん飲むのではなく、一口ずつ、頻繁に口に含んで潤すのがコツです。
お砂糖の入った飲み物は虫歯の原因になるので、お水やお茶がおすすめです。 - 保湿ジェルやスプレーの活用法
薬局では、お口の中の保湿を目的とした専用のジェルやスプレーも販売されています。
特に夜寝る前などに使用すると、朝の不快感が和らぐことがあります。
口腔灼熱症候群への対策:刺激を避けるセルフケア
原因不明の痛みに悩んでいる方は、まずはお口への刺激をできるだけ減らしてみましょう。
- 食事の工夫
香辛料の効いた辛いもの、レモンなどの酸味が強いもの、熱すぎるスープなどは、痛みを強く感じさせることがあります。
優しい味付けの、人肌程度の温度の食事がおすすめです。 - ストレス管理とリラックス法
この症状は、ストレスによって悪化することがあります。
ゆったりと湯船につかる、好きな音楽を聴く、軽いウォーキングをするなど、ご自身が心からリラックスできる時間を作ってみてくださいね。 - 食生活で意識したいこと
稀に、亜鉛やビタミンB群といった栄養素の不足が、舌の痛みに関係していることもあります。
特定の食品に偏らず、牡蠣やレバー、緑黄色野菜など、バランスの良い食事を心がけることも大切です。
ひとりで悩まないで。専門家と乗り越える更年期のお口ケア
セルフケアを続けてもなかなか改善しない時、あるいは症状が辛い時は、どうか一人で抱え込まないでください。
専門家の力を借りることも、とても大切なことです。
歯科医院で相談できること
かかりつけの歯科医院は、あなたの最も身近な相談相手です。
「更年期に入ってから、口の調子が悪くて…」と、正直にお話ししてみてください。
歯科医院では、
- 精密な歯周病検査と、自分では取れない歯石を除去する専門的なクリーニング
- 唾液の量を測定する検査
- お口の状態に合わせた歯磨き粉や保湿剤の提案
など、さまざまなサポートが受けられます。
最近では、更年期の女性の心と体の変化に寄り添ってくれる歯科医師も増えていますよ。
婦人科との連携も視野に
お口のトラブルの根本には、女性ホルモンの減少があります。
そのため、婦人科での治療が、結果的にお口の悩みの解決につながることも少なくありません。
例えば、ホルモン補充療法(HRT)という治療法があります。
これは、減少したエストロゲンを少量補うことで、更年期のさまざまな不調を和らげる治療ですが、この治療によって歯周病のリスクが下がったり、ドライマウスが改善したりする可能性があるという報告もあります。
全身の健康とお口の健康は、密接につながっています。
必要であれば、歯科医師と婦人科医が連携して、あなたにとって最善の治療法を探してくれるはずです。
まとめ
最後に、今日お話しした大切なポイントを振り返ってみましょう。
- 更年期のお口のトラブルは、女性ホルモン「エストロゲン」の減少が主な原因です。
- 特に注意したいのは、「歯周病の悪化」「ドライマウス」「口腔灼熱症候群」の3大トラブルです。
- トラブルごとに効果的なセルフケアがあります。まずは今日からできることから始めてみましょう。
- セルフケアで改善しない場合は、一人で悩まずに歯科医院や婦人科に相談してください。
更年期は、心も体も大きく変化する、ゆらぎの時期です。
これまで経験したことのない不調に、戸惑い、不安になるのは当たり前のことですよ。
でも、見方を変えれば、これはご自身の体とじっくり向き合い、これまで頑張ってきてくれた自分を、もっと大切にいたわってあげるための素晴らしい機会なのかもしれません。
お口のケアは、その第一歩です。
丁寧に歯を磨き、自分の体調に耳を傾ける時間を持つこと。
それが、これからの人生を、もっと健やかに、もっと笑顔で過ごすための土台になります。
あなたのこれからの毎日が、おいしく、楽しく、喜びに満ちたものでありますように。
心から応援しています。







