歯磨きは毎日しっかりしているのに、なぜかお口のニオイが気になったり、なんだか食事がおいしく感じられなくなったり…。
そんなお悩みを抱えていませんか?
こんにちは。
元歯科医師の田島美和です。
都内で20年以上、たくさんの患者さんのお口の健康に寄り添ってきました。
実は、お口の悩み、その原因は「歯」だけではないかもしれません。
見落とされがちなのが、そう、「舌」のケアなんです。
私自身も50代を迎え、体の変化とともに、お口の中の環境も変わってきたなと感じることがあります。
今回は、私の臨床経験も交えながら、特に私たち世代が知っておきたい「やさしい舌のお話」をさせていただきますね。
この記事を読み終える頃には、きっとあなたも舌ケアを始めたくなるはずですよ。
舌の役割を正しく知ろう
舌は、私たちが「生きる楽しみ」を感じるために、なくてはならない大切なパートナーです。
まずは、その働きを一緒に見ていきましょう。
味覚を司るセンサーとしての舌
舌の一番の役割といえば、やはり「味わう」ことですよね。
舌の表面には「味蕾(みらい)」という、味を感じる小さなセンサーがたくさんあります。
この味蕾のおかげで、私たちは甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦い、そして「うま味」といった複雑な味を感じ取り、食事を楽しむことができるのです。
美味しいものを「美味しい」と感じる幸せは、この舌の働きがあってこそなんですね。
舌の汚れがもたらす健康リスク
そんな大切な舌ですが、実はとても汚れが溜まりやすい場所でもあります。
舌の表面はツルツルではなく、細かい凹凸がたくさんあるからです。
ここに細菌が溜まってしまうと、口臭の原因になるだけでなく、全身の健康にも影響を及ぼすことがあるんですよ。
特に、飲み込む力が弱ってくるシニア世代にとっては、誤嚥性肺炎という深刻な病気のリスクにもつながるため、注意が必要です。
年齢とともに変わる舌の状態
若い頃はあまり気にならなかったのに、と感じる方も多いかもしれません。
年齢を重ねると、私たちの体には様々な変化が訪れます。
- 唾液の量が減ってくる
- お口周りの筋力が少しずつ衰える
- 舌の動きが小さくなる
こうした変化によって、お口の中の自浄作用が弱まり、舌に汚れがつきやすくなるのです。
だからこそ、50代を過ぎたら、これまで以上に意識的なケアが大切になってくるんですね。
舌の汚れ=「舌苔(ぜったい)」の正体
鏡でご自身の舌を見てみてください。
表面が白っぽくなっていませんか?
それこそが、舌の汚れ「舌苔(ぜったい)」です。
舌苔とは何か?成分とできる原因
舌苔は、決して特別なものではありません。
誰のお口にもあるもので、うっすらと白く付いている程度なら健康な証拠です。
その正体は、食べ物のカスや、お口の粘膜が剥がれ落ちたもの、そして細菌などが集まってできた、いわば「お口のアカ」のようなもの。
歯に付く歯垢(プラーク)と、ほぼ同じ成分でできています。
ただ、体調が優れなかったり、ストレスが溜まっていたり、お口が乾燥したりすると、この舌苔が分厚く、黄色っぽくなってしまうことがあるんです。
舌苔と口臭の意外な関係
「口臭の原因の約6割は、この舌苔にある」と言われているのをご存知でしたか?
舌苔の中に潜んでいる細菌が、食べカスなどに含まれるタンパク質を分解するときに、臭いの強いガスを発生させます。
これが、多くの方を悩ませる口臭の主な原因物質なんです。
歯磨きだけでは取れないニオイの元は、舌の上にあったのですね。
舌苔が引き起こす味覚障害のメカニズム
「最近、なんだか味が分かりにくい…」
もしそう感じたら、舌苔が原因かもしれません。
舌苔が分厚く舌の表面を覆ってしまうと、味を感じるセンサーである味蕾が、まるでマスクをされたような状態になります。
そうなると、食べ物の味が味蕾まで届かなくなり、味覚が鈍くなってしまうのです。
せっかくの美味しいお料理も、味が分からなければ楽しめませんよね。
味わう喜びを守るためにも、舌苔のケアはとても大切です。
正しい舌ケアのテクニック
「それなら、歯ブラシでゴシゴシこすればいいの?」
いいえ、それは絶対にNGです!
デリケートな舌を傷つけない、やさしいケアの方法を覚えましょう。
舌ブラシの使い方と選び方
舌のケアには、ぜひ専用の「舌ブラシ」や「舌クリーナー」を使ってください。
ドラッグストアなどで手軽に購入できますよ。
種類 | 特徴 | こんな方におすすめ |
---|---|---|
ブラシタイプ | 柔らかい毛で、舌の凹凸の汚れを優しくかき出す。 | 初めての方、すみずみまで丁寧にケアしたい方。 |
ヘラ(スクレーパー)タイプ | 舌の表面をなでるようにして、汚れをすくい取る。 | 嘔吐反射(えづき)が出やすい方、手早くケアしたい方。 |
使い方はとても簡単です。
1. 舌をできるだけ前に出す
2. 舌ブラシを舌の奥の方にそっと当てる
3. 力を入れずに、奥から手前に向かってゆっくりと動かす
これを2〜3回繰り返すだけで十分です。
鏡を見ながら、舌苔が付いている部分だけを狙ってケアするのがポイントですよ。
「こすりすぎ」が逆効果になる理由
「キレイにしたい」という気持ちが強いと、つい力が入ってしまいがちですが、それは逆効果です。
舌の表面は、私たちが思っている以上にデリケート。
ゴシゴシこすると、味を感じる味蕾を傷つけてしまい、かえって味覚障害を引き起こす原因になります。
また、傷ついた粘膜から細菌が入り込み、炎症を起こしてしまうこともあるのです。
「やさしく、なでるように」を合言葉にしてくださいね。
朝ケア?夜ケア?タイミングのベストは?
舌ケアに最適なタイミングは、1日1回、朝起きてすぐです。
眠っている間は唾液の分泌が減り、お口の中で細菌が一番増殖しやすい時間帯。
そのため、朝は舌苔の量が最も多くなっています。
朝食を摂る前にケアすることで、細菌を体内に取り込んでしまうのを防ぐことができますよ。
うがいや保湿との併用法
舌ケアの仕上げには、ブクブクうがいをしっかり行い、かき出した汚れを洗い流しましょう。
お口が乾燥しがちな方は、ケアの前に保湿ジェルなどを舌に塗って、汚れをふやかすと取り除きやすくなります。
無理なく、気持ちよく続けられる工夫を見つけてみてください。
シニア世代にこそ舌ケアが必要な理由
私がクリニックで多くのシニアの患者さんとお話ししてきた中で、舌ケアの重要性は特に強く感じています。
ご自身の健康はもちろん、ご家族の介護をされている方にもぜひ知っていただきたいお話です。
唾液量の減少と舌の乾燥
年齢とともに、お薬の影響などもあって、唾液の量は自然と少なくなっていきます。
唾液には、お口の中の汚れを洗い流してくれる「自浄作用」という大切な働きがありますが、その力が弱まると、どうしても舌に汚れが溜まりやすくなってしまうのです。
お口が乾くと、舌苔がこびりついて取りにくくなることも。
意識的な水分補給や、お口の保湿も心がけたいですね。
誤嚥性肺炎のリスクと舌ケアの関係
シニア世代にとって、最も気をつけたい病気の一つが「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。
これは、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまい、その際にお口の中の細菌が肺で炎症を起こす病気です。
舌苔は、まさに細菌の温床。
舌を清潔に保ち、お口の中の細菌を減らしておくことが、誤嚥性肺炎の予防に直結するのです。
命を守るためのケア、と言っても過言ではありません。
噛む・飲み込む機能を守るために
「噛む」「飲み込む」といった一連の動作には、舌のしなやかな動きが欠かせません。
しかし、使わなければ筋力が衰えるのは、舌も同じこと。
舌の機能が低下すると、食べこぼしが増えたり、むせやすくなったりするだけでなく、舌の動きが悪くなることで汚れも溜まりやすくなります。
日頃からよくおしゃべりをしたり、お口の体操を取り入れたりして、舌を元気に保つことも大切ですね。
家庭でできる舌ケアの工夫
舌ケアは、毎日の暮らしの中に無理なく取り入れるのが長続きのコツ。
ご家族みんなで取り組める、ちょっとした工夫をご紹介します。
介護中の家族にも使えるやさしいケア法
ご家族の介護をされている方にとって、お口のケアは悩みの種かもしれません。
嫌がられたり、お口を開けてくれなかったりすることもありますよね。
そんな時は、無理強いしないことが一番です。
1. まずは保湿から
スポンジブラシやガーゼに保湿剤をつけ、お口の中全体を優しく湿らせてあげましょう。
2. 汚れを優しく拭う
舌が潤ったら、こびりついた汚れをスポンジブラシでくるくると回すように、優しく拭き取ります。
3. 一度にやろうとしない
一度でキレイにしようと思わず、「今日はこれくらい」と決めて、毎日少しずつ続けることが大切です。
ケアの前には必ず「お口をきれいにしますね」と声をかけて、安心させてあげてくださいね。
高齢者向けの道具選びと注意点
高齢の方のお口はとてもデリケートです。
道具選びにも少し気を配ってあげましょう。
- スポンジブラシ:粘膜を傷つけにくく、保湿剤を塗りながら汚れを拭き取れるので便利です。
- 口腔ケア用ウェットティッシュ:うがいが難しい方でも、手軽に汚れを拭き取れます。
ケアをするときは、誤嚥を防ぐために、少しだけ上半身を起こした姿勢で行うと安全です。
孫と一緒にできる「お口チェック習慣」
「あーんして、べーってできるかな?」
お孫さんと一緒に、鏡を見ながら舌をチェックする習慣はいかがでしょうか。
子どもは、大好きな人の真似をするのが得意です。
おじいちゃん、おばあちゃんが楽しそうに舌のケアをしていれば、「自分もやってみたい!」と思うかもしれません。
世代を超えて、お口の健康に関心を持つ素敵なきっかけになりますよ。
まとめ
歯磨きだけでは終わらない、新しいお口のケア習慣。
その主役が「舌」であることが、お分かりいただけたでしょうか。
最後に、今日のお話のポイントを振り返ってみましょう。
- 舌の汚れ「舌苔」は、口臭や味覚障害の大きな原因になる。
- 舌ケアは専用のブラシを使い、「1日1回、朝、優しく」が基本。
- 特にシニア世代は、舌ケアが誤嚥性肺炎の予防につながる。
- 介護でも、保湿をしながら優しくケアすることで、お口を清潔に保てる。
50代は、これからの人生をより豊かに過ごすための準備期間。
舌のケアは、まさに「今が始めどき」です。
毎日のほんの少しの習慣が、この先の「味わう喜び」や「話す楽しみ」、そして全身の健康を守ることに繋がっていきます。
「年齢に合った口腔ケア」を、今日から始めてみませんか?
あなたの毎日が、もっと美味しく、もっと健やかになることを心から願っています。