「歯医者さんって、お家でどんな歯みがきをしているのかしら?」
クリニックで患者さんとお話ししていると、こんな質問をよくいただきました。
はじめまして。
元歯科医師の田島美和と申します。
都内で25年以上、たくさんの患者さんのお口の健康と向き合ってきました。
今はライターとして、自身の経験や更年期、親の介護といった人生経験も踏まえながら、「専門用語を使わない歯の話」をお届けしています。
この記事では、そんな私が自宅で毎日続けている、プロの口腔ケア習慣を余すところなくお伝えしますね。
特別な道具は必要ありません。
ご自宅でできることって、実はたくさんあるんですよ。
歯の健康は「歳を重ねてからが本番」です。
この記事が、あなたの未来の健康を守る、やさしいきっかけになれば嬉しいです。
そもそも、口腔ケアって何のため?
「歯みがきは、虫歯にならないためにするものでしょう?」
もちろん、その通りです。
でも実は、口腔ケアの役割はそれだけではないんですよ。
「歯を守る」だけじゃない口腔ケアの役割
お口の健康は、全身の健康と深くつながっています。
例えば、歯周病菌が血管を通って全身に巡ると、心臓の病気や糖尿病を悪化させる一因になることが分かっています。
特にご高齢の方にとっては、お口の細菌が肺に入って起こる「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」の予防が、命を守る上でとても大切になるのです。
お口をきれいにすることは、体全体の健康を守るための第一歩なんですね。
噛む力・話す力・食べる楽しみを支える
「しっかり噛める」
「楽しくおしゃべりできる」
「食事がおいしい」
これらは、私たちの暮らしの質(QOL)を支える、かけがえのない喜びです。
口腔ケアは、こうした当たり前の幸せを守るための土台となります。
最近では、お口の機能のささいな衰えが心身全体の衰えにつながる「オーラルフレイル」という考え方も注目されています。
毎日のお手入れは、未来の元気な自分への投資でもあるんですよ。
高齢期の健康と口の関係
私自身、親の介護を経験して、高齢期のお口のケアがいかに大切かを痛感しました。
食事がうまく摂れなくなると、あっという間に体力が落ちてしまいます。
反対に、お口の中がさっぱりして、自分の口で美味しく食べられるようになると、ご本人の表情までパッと明るくなるんです。
お口のケアは、ただの衛生管理ではありません。
その方の尊厳や、生きる意欲にもつながる大切なケアなのだと、心から感じています。
歯科医・田島美和の自宅ケアルーティン
「では、具体的にどんなことをしているの?」と思いますよね。
私の毎日のルーティンを、こっそりご紹介します。
朝の口腔ケア:起きてすぐのひと工夫
朝、目が覚めたら、まず向かうのは洗面所です。
朝食を食べる前に、必ずうがいと歯みがきをします。
なぜなら、寝ている間のお口の中は、唾液の分泌が減って細菌が一年中繁殖しやすい環境になっているから。
朝一番の歯みがきは、この増殖した細菌をリセットするための大切な習慣なんです。
これを始めてから、朝起きた時のお口のネバつきが、ずいぶん気にならなくなりました。
食後の習慣:歯みがきだけじゃ足りない!
食後はもちろん歯みがきをしますが、必ずセットで行うのが「デンタルフロス」です。
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れは6割ほどしか落とせないと言われています。
残りの4割の汚れ(プラーク)が、虫歯や歯周病の大きな原因になってしまうんです。
「歯ブラシの後にフロスをすると、まだこんなに汚れが残っていたんだ!と驚きますよ」
これは私がクリニックでいつもお伝えしていた言葉です。
ぜひ一度、試してみてくださいね。
夜の仕上げ:就寝前の「小さな儀式」
一日の中で、最も時間をかけて丁寧にケアするのが就寝前です。
先ほどもお話しした通り、寝ている間はお口のトラブルが最も進みやすい時間帯だから。
テレビを見ながら、ゆっくりフロスを通し、一本一本の歯を確かめるように優しくブラッシングします。
私にとっては、一日の終わりに自分をいたわる「小さな儀式」のような時間です。
使っている道具たち:市販品?それとも…
「先生は、特別な道具を使っているんでしょう?」ともよく聞かれますが、そんなことはありません。
私が使っているのは、ドラッグストアで手に入る、ごく普通のものです。
- 歯ブラシ:ヘッドが小さく、毛先が細いもの
- デンタルフロス:ワックス付きの、指に巻きつけて使うタイプ
- 歯みがき粉:フッ素入りのもの
- 洗口液:刺激の少ないノンアルコールタイプ(夜の仕上げに)
大切なのは、高価なものを使うことではなく、自分に合ったものを正しく使い続けることなんですよ。
年齢別・家庭でできるケアの工夫
お口の状態は、年齢やライフステージによって変化していきます。
ご自身やご家族に合わせた工夫を取り入れてみましょう。
50代から気をつけたいポイント
私自身もそうですが、50代頃から女性は更年期の影響で、体に様々な変化が訪れます。
お口も例外ではありません。
女性ホルモンの減少で唾液が出にくくなり、お口が乾く「ドライマウス」に悩む方が増えてきます。
唾液にはお口の中を洗い流したり、細菌の活動を抑えたりする大切な役割があるので、唾液が減ると虫歯や歯周病のリスクがぐっと高まってしまうのです。
更年期以降のトラブルとその予防法
お口の乾きが気になる時は、次のようなセルフケアがおすすめです。
- 唾液腺マッサージ:耳の下や顎の下を、指で優しくマッサージして唾液の分泌を促します。
- よく噛んで食べる:噛むこと自体が、唾液を出す一番の刺激になります。
- こまめな水分補給:糖分を含まない水やお茶を少しずつ飲むようにします。
私も、仕事の合間にこっそりマッサージをしていますよ。
家族みんなのケア習慣づくり
口腔ケアは、一人で頑張るより、家族みんなで取り組むと楽しく続けられます。
我が家では、孫が遊びに来た時に「どっちが上手に歯みがきできるかな?」なんて競争したりします。
洗面所に、家族それぞれの歯ブラシをカラフルに並べて置くだけでも、なんだか楽しい気持ちになりますよね。
「今日フロスした?」「えらいね!」
そんな何気ない会話が、お互いのモチベーションにつながるはずです。
プロの視点で選ぶおすすめアイテム
たくさんの種類があって、何を選べばいいか迷ってしまいますよね。
プロの視点で、選び方のポイントをお伝えします。
歯ブラシ・フロス・洗口液の選び方
アイテム | おすすめの選び方 |
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歯ブラシ | ヘッドが小さく、奥歯まで届きやすいもの。毛の硬さは「ふつう」が基本です。 |
デンタルフロス | 初心者の方は、持ち手が付いた「Y字ホルダータイプ」が使いやすいでしょう。 |
洗口液 | 刺激が苦手な方は「ノンアルコール」タイプを。歯周病予防なら殺菌成分配合のものがおすすめです。 |
「電動歯ブラシってどうなの?」という疑問に回答
「電動歯ブラシは、手で磨くより良いのでしょうか?」というのも、定番の質問です。
電動歯ブラシは、短時間で効率よくプラークを除去できるのが最大のメリットです。
一方で、強く当てすぎると歯や歯ぐきを傷つけてしまうこともあるので、力を入れず、優しく歯に当てるのがコツですよ。
手磨きでも電動でも、ご自身が「気持ちよく、続けやすい」と感じる方を選ぶのが一番です。
市販品でも“プロっぽく”使うコツ
いつものケアをワンランクアップさせる、簡単なコツをご紹介しますね。
- フロスを歯の側面に沿わせる
フロスを歯と歯の間に入れたら、前後の歯、両方の側面に「C」の字を描くように沿わせて、上下に動かします。これで汚れの取れ方が格段に変わります。 - 歯ブラシは鉛筆のように持つ
歯ブラシをグーで握ると、力が入りすぎてしまいます。鉛筆を持つように軽く握ると、余計な圧がかからず、小刻みに優しく磨けます。 - 鏡を見ながら磨く
どこを磨いているか意識するために、ぜひ鏡を見てください。磨き残しがちな奥歯や歯の裏側も、しっかり確認できます。
続けるコツは「頑張りすぎない」こと
ここまで色々とお話ししてきましたが、一番大切なことをお伝えしますね。
それは、「頑張りすぎない」ということです。
完璧じゃなくてOK、できることから
「やらなきゃ」と義務に感じてしまうと、続けるのが苦しくなってしまいます。
100点満点を目指さず、60点でOK、くらいの気持ちでいることが、長く続ける秘訣ですよ。
そして、ご自宅でのセルフケアに加えて、定期的にプロのチェックを受けることも忘れないでくださいね。
セルフケアでは落としきれない汚れを専門的にクリーニングしてもらうことで、虫歯や歯周病のリスクをさらに下げることができます。
例えば、大阪市福島区の野田阪神歯科クリニックのように、かかりつけ医として予防歯科をサポートしてくれる歯医者さんを見つけておくと、さらに安心ですね。
ルーティン化の工夫:タイミングと場所
「歯みがきをしなくちゃ」と意識するのではなく、生活の中に自然に組み込んでしまうのがおすすめです。
- お風呂に入りながら、湯船でフロスをする
- リビングでテレビを見ながら、ゆっくり歯を磨く
- 食卓のすぐそばに、歯ブラシセットを置いておく
あなたの生活スタイルに合わせて、「この時間」「この場所」と決めてしまうと、忘れずに習慣化しやすくなります。
モチベーションを保つ工夫
ちょっとした工夫で、面倒なケアも楽しくなります。
- カレンダーに、ケアができた日はシールを貼る
- お気に入りの香りの歯みがき粉を見つける
- 家族やパートナーと「今日もお疲れさま」と声をかけ合う
自分なりの「小さなご褒美」を見つけてみてくださいね。
まとめ
いかがでしたか?
歯科医が実践する特別なケア、というよりは、毎日の基本的なお手入れを、少しだけ丁寧に続けている、ということが伝わったでしょうか。
- 口腔ケアは、お口だけでなく全身の健康を守るための大切な習慣です。
- 朝は「起きてすぐ」、夜は「寝る前」のケアが特に重要です。
- 歯ブラシだけでなく、デンタルフロスを毎日の習慣に取り入れましょう。
- 年齢とともにお口は変化します。ご自身に合ったケアを見つけましょう。
- 完璧を目指さず、「頑張りすぎない」ことが続ける一番のコツです。
自宅でコツコツ続けるセルフケアは、未来の自分への、最高の贈り物だと私は思っています。
何歳になっても、自分の歯で美味しく食事をして、大切な人たちと笑い合える。
そんな素敵な未来のために、できることから一つ、始めてみませんか?
まずは、ドラッグストアでフロスを一本、手に取ってみる。
そんな小さな一歩からで、大丈夫ですよ。