毎日ちゃんと歯を磨いているのに、歯医者さんで「虫歯があります」と言われた経験はありませんか?
こんにちは、田島美和です。東京で予防歯科を専門とする歯科クリニックを15年ほど運営し、20年以上にわたって患者さんの歯を診てきました。現在はフリーランスのライターとして、「専門用語を使わない歯の話」をモットーに情報発信をしています。
歯科医として長年働くなかで気づいたことがあります。「磨いている」ことと「磨けている」ことはまったく別だということ。そして、よかれと思ってやっている歯磨き習慣が、実は歯を傷つけていることが少なくありません。
この記事では、歯科医である私自身が「これだけは絶対にやらない」と決めている歯磨きのNG習慣を7つご紹介します。どれも日常的にやってしまいがちなものばかりです。ご自身の歯磨きを思い浮かべながら、読んでみてください。
目次
ゴシゴシ磨きは百害あって一利なし
エナメル質が削れると、もう戻らない
歯を一生懸命きれいにしようとして、つい力が入ってしまう。その気持ちはよくわかります。でも、力を入れすぎるブラッシング、いわゆる「オーバーブラッシング」は、歯にとって大きなダメージです。
歯の表面を覆っているエナメル質は、体のなかで最も硬い組織。それでも、硬い歯ブラシで毎日ゴシゴシ磨き続けると、少しずつ削れていきます。やっかいなのは、一度削れたエナメル質は元に戻らないこと。皮膚の傷のように自然に治ることはないのです。
エナメル質が薄くなると、その下にある象牙質がむき出しに近い状態になります。冷たいものがキーンとしみる「知覚過敏」の正体がこれです。
私のクリニックにも「虫歯じゃないのに歯がしみる」と来院される方がたくさんいました。原因を調べると、歯の根元がえぐれたように削れている「くさび状欠損」が見つかることが多かったです。真面目に磨いている方ほど、こうなりやすい。皮肉な話です。
歯茎が下がると元には戻らない
力の入れすぎは、歯だけでなく歯茎にもダメージを与えます。
強いブラッシングを続けると、歯茎が少しずつ後退していきます。「歯肉退縮」と呼ばれる状態です。歯が長くなったように見える、歯の根元に隙間ができてきた。こうした変化に気づいたら、ブラッシングの力加減を見直してみてください。
下がってしまった歯茎は、残念ながら自力では元に戻りません。歯科で外科的な処置を受ける方法もありますが、そうなる前に予防したいところです。
歯科医が実践する力加減の目安
では、どのくらいの力で磨けばいいのか。日本歯周病学会のペリオブックによると、適切なブラッシング圧は150〜200g程度。歯ブラシの毛先が軽くしなる程度の力です。
「150gってどのくらい?」と思いますよね。一つ試してほしいことがあります。キッチンスケールの上に歯ブラシを押し当ててみてください。150〜200gの力がどれだけ軽いか、きっと驚くはずです。
もう一つ、持ち方も大切。歯ブラシをグーの手で握ると、どうしても力が入りすぎます。鉛筆を持つような「ペングリップ」に変えるだけで、自然と適切な力加減になります。
| チェック項目 | 要注意のサイン |
|---|---|
| 歯ブラシの毛先 | 1か月以内に開いてしまう |
| ブラッシング後の歯茎 | 出血がある |
| 歯の根元 | えぐれたような凹みがある |
| 知覚過敏 | 冷たいものがしみる |
一つでも当てはまる方は、力の入れすぎかもしれません。
歯ブラシの動かし方、大きすぎませんか?
大きく動かすほど磨き残しが増える
歯ブラシを横に大きく動かす「横磨き」。子どもの頃からこの磨き方が身についている方は多いと思います。
大きく動かすと、たしかに「磨いている感」はある。でも実際には、歯1本1本に毛先がきちんと当たっていないことがほとんどです。とくに歯と歯の間、歯と歯茎の境目といった汚れがたまりやすい場所を、毛先がスルーしてしまいます。
さらに、大きく横に動かすブラッシングは歯茎を傷つけやすく、歯肉退縮の原因にもなります。
小刻みに動かすコツ
歯科で推奨されているのは、5mm幅くらいの小さな振動で、1〜2本ずつ丁寧に磨く方法です。
代表的なのは「スクラッビング法」と「バス法」の2つ。
スクラッビング法は、歯ブラシの毛先を歯の表面に直角(90度)に当て、小刻みに振動させます。歯の表面の汚れを落とすのに向いた磨き方です。
バス法は、歯と歯茎の境目に毛先を45度の角度で当て、小刻みに振動させます。歯周ポケットの中の汚れを取り除くのに効果的で、歯周病予防に適しています。
どちらの方法も、ポイントは「小刻みに」「1〜2本ずつ」。日本歯科医師会の歯ブラシ活用テクニックでも、毛先のつま先・わき・かかとを使い分けて1本ずつ磨くことが紹介されています。
最初は鏡を見ながら、歯ブラシが小さく動いているか確認してみてください。慣れれば、テレビを見ながらでも自然とできるようになります。
食べた直後に磨くのは逆効果?
酸で柔らかくなったエナメル質を磨くリスク
「食べたらすぐ磨く」。子どもの頃から教わってきた方も多いのではないでしょうか。
ただ、食事の内容によっては、食後すぐの歯磨きが逆効果になることがあります。
食事をすると口の中が酸性に傾き、エナメル質が一時的に柔らかくなります。とくに柑橘類、お酢を使った料理、炭酸飲料などを摂った後は、酸の影響が強く出ます。この状態でゴシゴシ磨くと、柔らかくなったエナメル質の表面を削り取ってしまうリスクがあるのです。
結局、いつ磨くのが正解なのか
「じゃあ食後はいつ磨けばいいの?」と混乱しますよね。
結論から言います。普通の食事であれば、食後すぐに磨いて問題ありません。日本小児歯科学会も「食後の歯磨きを遅らせることに根拠は乏しい」という見解を示しています。
注意が必要なのは、酸性の強い飲食物を摂ったときだけ。その場合は30分ほど待ってから磨くか、先に水やお茶で口をすすいで酸を中和してから磨くのがおすすめです。
私自身は、酸っぱいものを食べた後はまず水でぶくぶくうがいをしてから磨くようにしています。30分待つのがベストですが、忙しい日はうがいだけでも大丈夫です。
歯磨き粉の「つけすぎ」に要注意
泡立ちが生む「磨けた気分」の罠
テレビCMのように、歯ブラシの上に歯磨き粉をたっぷり乗せていませんか?
歯磨き粉を多くつけると、口の中がすぐ泡だらけになります。メントールの清涼感も加わって、十分磨けた気分になる。でも実際は、まだプラーク(歯垢)がしっかり残っていることが多いのです。
神奈川県歯科医師会の歯磨きコラムでも、歯磨き粉の清涼感で「磨けた」と思い込んでしまう落とし穴が指摘されています。
泡立ちや清涼感は、磨けた証拠ではありません。むしろ、歯磨き粉が少ないほうが「どこを磨いているか」を舌先で感じ取りやすく、磨き残しに気づきやすくなります。
適量はどのくらいか
2023年に日本口腔衛生学会など4学会が合同で発表した推奨によると、大人の歯磨き粉の適量は歯ブラシの2/3程度(約1.5〜2cm)。ここで大切なのは「たっぷり=効果的」ではないということです。
フッ素の虫歯予防効果を最大限に活かすコツもあります。磨いた後のすすぎは、少量の水で1回だけ。何度もすすいでしまうと、せっかくのフッ素が流れてしまいます。
| 年齢 | 歯磨き粉の適量 | フッ素濃度の目安 |
|---|---|---|
| 0〜2歳 | 米粒程度(1〜2mm) | 1000ppm以下 |
| 3〜5歳 | グリーンピース程度(5mm) | 1000ppm以下 |
| 6歳〜大人 | 歯ブラシの2/3(1.5〜2cm) | 1400〜1500ppm |
「かため」の歯ブラシ、まだ選んでいませんか
硬い毛が歯と歯茎を傷つける
「かための方がしっかり汚れが落ちそう」。そう思って硬い歯ブラシを選んでいる方は少なくありません。
たしかに、硬い毛で磨くとスッキリ感があります。でもこれは「磨けた感」であって、「きれいに磨けている」こととは別の話です。
硬い毛先は歯茎を傷つけやすく、長い目で見ると歯肉退縮やエナメル質の摩耗を引き起こします。とくに力を入れて磨くクセがある方が硬い歯ブラシを使うと、ダメージは倍増。ゴシゴシ+かため、という組み合わせは歯にとって最悪のコンビです。
歯科医が選ぶ歯ブラシの条件
私が使っているのは「ふつう」の硬さ。歯茎に炎症があるときは「やわらかめ」に切り替えます。
歯科医が歯ブラシを選ぶときに重視するポイントをまとめました。
- 毛の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」
- ヘッドは小さめ(奥歯の裏まで届くサイズ)
- 毛先は均一にカットされたフラットタイプ
- 柄はストレートで握りやすいもの
高機能をうたう歯ブラシもたくさんありますが、大切なのは「自分の口に合ったサイズで、正しく磨けるかどうか」。シンプルなもので十分です。
古い歯ブラシをいつまでも使っていませんか
毛先が開くと汚れ除去率が6割に落ちる
「まだ使えるから」と、毛先が広がった歯ブラシを使い続けている方。これは想像以上にもったいないことをしています。
新品の歯ブラシの歯垢除去率を100%とすると、毛先が開き始めた状態では約80%、かなり広がった状態では約60%まで低下します。つまり、4割もの汚れが落とせていない計算です。
さらに、古い歯ブラシには細菌が繁殖しています。3週間ほど使用した歯ブラシの細菌数は約100万個に達するという報告もあります。毎日使うものだからこそ、清潔な状態を保ちたいところです。
交換のタイミングと見極め方
交換の目安は1か月に1本。歯ブラシの裏側から見て、毛先がヘッドからはみ出していたら交換のサインです。
ちなみに、1か月経たないうちに毛先が開いてしまう場合は、磨くときの力が強すぎます。歯ブラシの寿命が教えてくれる「力加減チェッカー」だと思ってください。
歯ブラシ1本で「完了」にしない
歯ブラシだけでは6割しか汚れが落ちない
歯ブラシだけで除去できるプラーク(歯垢)の割合は、約60%。つまり、どんなに丁寧に磨いても、歯ブラシだけでは4割の汚れが残ります。
残った汚れのほとんどは、歯と歯の間にあります。虫歯や歯周病が歯と歯の間から始まりやすいのは、このためです。
フロスと歯間ブラシの使い分け
歯間の汚れを取り除くには、デンタルフロスか歯間ブラシを使います。
- フロスは、歯と歯の間が狭い方や若い方におすすめ。薄い糸状なので、すき間が小さくてもすっと入ります
- 歯間ブラシは、歯と歯の間にすき間がある方に向いています。年齢とともに歯茎が下がって歯間が広がってきた方には、こちらが使いやすいはずです
歯間ブラシにはサイズがあり、合わないものを使うと歯茎を傷つけてしまいます。歯科で自分に合うサイズを確認してもらうのがベストです。
頻度は1日1回で十分。私は夜の歯磨きの前にフロスを通すのを習慣にしています。最初は面倒に感じるかもしれませんが、2週間も続ければ「フロスしないと気持ち悪い」と感じるようになりますよ。
まとめ
今回ご紹介した「歯科医がやらないNG歯磨き習慣」は次の7つです。
- 力を入れてゴシゴシ磨く
- 歯ブラシを大きく横に動かす
- 酸性食品の直後に磨く
- 歯磨き粉をたっぷりつける
- 「かため」の歯ブラシを選ぶ
- 毛先が開いた歯ブラシを使い続ける
- 歯ブラシだけで済ませる
どれも一つ一つは小さな習慣です。でも毎日のことだからこそ、積み重なると歯や歯茎へのダメージは大きくなります。
「自分の磨き方、ちょっと気になるかも」と思った方は、ぜひ一度、歯科医院でブラッシング指導を受けてみてください。プロに自分の磨き方のクセを見てもらうだけで、口の中の状態はかなり変わります。
歯の健康は、歳を重ねてからが本番です。70代、80代になっても自分の歯でおいしく食事ができるように、今日の歯磨きから少しだけ意識を変えてみませんか。


