はじめまして。田島美和と申します。東京医科歯科大学を卒業後、約20年にわたって都内の歯科医院に勤務し、2005年からは予防歯科を専門とするクリニックを運営してきました。現在はライターとして、「専門用語を使わない歯の話」をモットーに情報発信を続けています。

「マスクをしていると、自分の口がにおうのが気になって…」「最近、なんとなく口臭がひどくなった気がする」そんな悩みを持つ方から相談をいただくことが、とても増えています。実は、私自身も更年期を迎えてから口の中の変化を感じた一人です。若いときはまったく気にならなかったのに、なぜ50代になってにおいが気になりはじめるのでしょうか。

この記事では、「大人の口臭」が起きる本当の理由と、ただマウスウォッシュで誤魔化すのではなく、においの根本を変えるためのケアをご紹介します。口臭は、正しく向き合えば必ず改善できます。ぜひ最後まで読んでみてください。

「大人の口臭」はなぜ起こる?まず仕組みを知ろう

口臭の正体は「ガス」だった

口臭の多くは、口の中に住む細菌が、食べかすや古い粘膜などのタンパク質を分解する際に発生するガスです。このガスの正式名称は「VSC(揮発性硫黄化合物)」といい、主に3種類あります。

  • 硫化水素:腐った卵のようなにおい
  • メチルメルカプタン:腐った玉ねぎのようなにおい
  • ジメチルサルファイド:生ゴミのようなにおい

これらが混ざり合って、私たちが「口臭」と感じるにおいになります。特にメチルメルカプタンは歯周病との関連が深く、口臭の強さと強い相関があるとされています。

口臭の種類を整理しておこう

口臭にはいくつかの種類があります。自分がどのタイプなのかを知ることが、正しいケアへの第一歩です。

種類原因特徴
生理的口臭唾液の減少による細菌増殖朝起きたとき・空腹時・緊張時に強くなる。食事や水分補給で改善する
病的口臭歯周病・虫歯・舌苔・全身疾患など一日中においが続く。放置すると悪化する
飲食物・嗜好品による口臭ニンニク・アルコール・タバコなど一時的なもので、時間とともに消える
心理的口臭実際には臭わないのに強く気にする歯科や心療内科への相談が有効

「朝は強いけれど日中は気にならない」なら生理的口臭の可能性が高く、「一日中においが続く」なら病的口臭を疑うサインです。

なお、日本口腔外科学会によると、病的口臭の90%以上は口の中に原因があります。つまり、口臭に悩む多くの方は、全身の病気より先に口の中を見直すことが重要なのです。

40・50代に口臭が強まりやすい理由

長年、クリニックで患者さんを診てきた経験から感じることがあります。それは、「50代になってから口臭が気になりはじめた」という方が非常に多いということ。これは決して気のせいではなく、年齢とともに口の中で起きる変化がいくつも重なるためです。

唾液の減少がすべての始まりになる

口臭対策において、唾液は最大の味方です。唾液には、細菌を洗い流す「自浄作用」と、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」があります。健康な人なら1日に1〜1.5リットルもの唾液を分泌しているのですが、加齢とともにこの量が徐々に減っていきます。

唾液が減ると口の中が乾燥し、細菌が増殖しやすくなります。これがいわゆる「ドライマウス(口腔乾燥症)」と呼ばれる状態で、口臭を悪化させる直接の引き金になります。

更年期ホルモンの変化が口臭に影響する

40〜50代の女性にとって見逃せないのが、ホルモンバランスの変化です。更年期を迎えると、女性ホルモンの一種である「エストロゲン」の分泌量が大きく低下します。エストロゲンは口腔内の粘膜を潤し、唾液の分泌を促す働きを持っています。そのため、このホルモンが減少すると口の乾きが進み、細菌が増殖しやすい環境が生まれてしまうのです。

私自身、更年期を迎えた頃に「なんとなく口が渇く」と感じた経験があります。あのときの感覚は、まさに口の中の環境が変わったサインだったと、今になって実感しています。

また、ストレスや睡眠薬・抗うつ薬などの薬の副作用も、唾液の分泌を減らす要因になります。複数の薬を常用している方は、担当医に相談してみることをおすすめします。

歯周病という「静かな進行」

口臭の最大の原因として見逃せないのが歯周病です。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、45歳以上では過半数の人に4mm以上の歯周ポケットが認められます。令和4年(2022年)の「歯科疾患実態調査」では、ある程度進行した歯周病がある人の割合は15歳以上全体で47.9%——つまり2人に1人近くが歯周病という現実です。

歯周病が怖いのは、初期にほとんど痛みがないことです。歯ぐきが少し赤い、歯磨きのときに出血がある——そのくらいの症状しか出ないため、「大したことない」と放置されやすいのです。しかし歯周ポケットの中では嫌気性菌が増殖し、メチルメルカプタンをどんどん産生しています。口臭が慢性的に続いている場合、歯周病が潜んでいる可能性をぜひ疑ってください。

舌苔(ぜったい)という見えない汚れ

舌の表面に白くコケのように付着している汚れを「舌苔(ぜったい)」と呼びます。この舌苔が、口臭の実に6割を占めるといわれています。舌苔の中では細菌が増殖し、VSC(揮発性硫黄化合物)を産生し続けます。

加齢による唾液の減少や、ドライマウスの状態になると、舌苔はより付きやすくなります。一方、歯磨きをどれほど丁寧にしても、舌のケアをしていなければ口臭は残り続けます。

まず「自分の口臭」をセルフチェックしてみよう

「自分の口がにおうかどうか、正直よくわからない」という方は多いはずです。人間の鼻はにおいに慣れやすく、自分の口臭を自覚できないことがほとんどだからです。

手軽にできるセルフチェックの方法をご紹介します。

  • ビニール袋や大きめのカップに息を吹き込み、すぐに蓋をして、数秒後にそのにおいを確認する
  • 使用後のデンタルフロスのにおいをかぐ(独特の臭みがある場合は歯間の汚れや歯周病の可能性あり)
  • ティッシュやコットンで舌の表面をそっと拭い、そのにおいをかぐ
  • 朝起きたとき、マスクの中のにおいに注意して観察する

「朝だけ強い」なら自然な範囲ですが、「昼間や夕方もにおいが続く」と感じるなら、病的口臭を疑って早めに歯科医院を受診することをおすすめします。

口臭の根本を変える「本物のケア」

マウスウォッシュで口をすすぐことは、一時的にスッキリする感覚はありますが、根本的な口臭対策にはなりません。においの元を取り除かなければ、繰り返すだけです。ここからは、本当の意味で口臭を改善するケアをお伝えします。

歯磨きをもう一度、見直す

「毎日ちゃんと磨いているのに、においが消えない」という方はとても多いです。じつは歯ブラシだけで落とせる汚れは約60%といわれています。歯と歯の間、歯ぐきの境目、奥歯の裏側など、毛先が届きにくい場所に汚れと細菌が残り続けているのです。

意識したいポイントを挙げます。

  • 歯ブラシは鉛筆を持つように軽く持ち、力を入れすぎない
  • 1本ずつ、歯ぐきの境目を意識しながらていねいに磨く
  • 就寝前の歯磨きを最も丁寧に行う(就寝中は唾液が減り、細菌が最も増殖しやすい)
  • 起床時にも軽く磨くと、朝の口臭を抑えやすくなる

デンタルフロス・歯間ブラシを日課にする

歯ブラシだけでは届かない歯間の汚れを除去するために、デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシを使う習慣をつけましょう。フロスを使うと歯垢除去率は約90%まで向上するとされています。

使うタイミングは就寝前がベストです。フロスは歯磨きの「前」に使うと、歯磨き粉に含まれるフッ素が歯間にも行き渡りやすくなります。

使用後のフロスに強いにおいや出血がある場合は、歯周病が進行しているサインです。そのまま放置せず、早めに歯科医院を受診してください。

舌ブラシで舌苔を丁寧に除去する

口臭対策の中でも特に効果的で、実践している方が少ないのが「舌磨き」です。市販の舌ブラシを使い、以下の手順で行いましょう。

  • 水を口に含み、舌をしっかり湿らせてから開始する
  • 舌を大きく前に出し、「奥から手前」に向かって軽くなでるように動かす
  • 力を入れすぎず、1日1回(朝がおすすめ)で十分
  • 歯磨き粉は使用しない(研磨剤が舌を傷つける可能性がある)
  • 手前から奥に動かすのはNG(細菌を喉の奥に送り込んでしまうため)

舌はとてもデリケートな組織で、磨きすぎると味蕾(みらい)を傷つけ、味覚に影響が出ることもあります。「丁寧に、軽く、1日1回」が鉄則です。

唾液を増やす生活習慣

根本的な口臭対策として、唾液の分泌を増やすことは非常に大切です。

  • よく噛んで食べる(特に歯ごたえのある根菜類や玄米を意識的に取り入れる)
  • シュガーレスのキシリトールガムを噛む習慣をつける
  • こまめに水分を補給する(口が乾いたと感じたときだけでなく、予防的に)
  • 耳下腺・顎下腺・舌下腺の「唾液腺マッサージ」を取り入れる
  • 口呼吸から鼻呼吸に意識を変える
  • ストレスをためない生活を心がける

唾液腺マッサージとは、口の周りにある3つの唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)を皮膚の上からやさしく刺激するケアです。あごの真下を舌で押し上げるようなイメージで親指で押すと、ジワーッと唾液が出てくるのを感じることができます。

歯科医院での定期メンテナンスを習慣にする

どれほど丁寧にセルフケアを続けても、歯石は自分では除去できません。歯石は細菌の温床となり、歯周病を悪化させます。特に更年期以降は、3か月ごとの定期検診がおすすめです。

また、歯科医院では唾液検査や口臭測定を通じて、口臭の原因を客観的に評価してもらえます。「なんとなく気になる」という段階から相談できる場所ですので、遠慮せず受診してみてください。

「年齢のせい」と諦める前に、できることがある

「年を取ったから仕方ない」と思っていませんか?確かに、加齢による変化そのものを止めることはできません。でも、だからといって口臭を放置してよいわけではありません。

クリニックで患者さんを診ていた20年間、「ちゃんとケアすれば、年齢に関係なく口の中は変わる」という場面を何度も目の当たりにしてきました。口臭が改善されて笑顔が増え、人と話すことが怖くなくなった方。マスクを外せるようになって、自信を取り戻した方。そんな姿が、今でも私の原動力になっています。

歯の健康は「歳を重ねてからが本番」。日々のちょっとした習慣の積み重ねが、5年後10年後の口の環境を大きく変えます。まず今夜、いつもの歯磨きに舌磨きとフロスをプラスするところから始めてみませんか。

まとめ

「大人の口臭」は、多くの場合、正しいケアで改善が期待できます。この記事の要点をまとめます。

  • 口臭の9割以上は口の中に原因がある
  • 40〜50代は更年期による唾液の減少・歯周病・舌苔の増加が重なりやすい時期
  • 一日中においが続く場合は、病的口臭のサインかもしれない
  • 歯磨き・フロス・舌ブラシ・唾液腺マッサージ・定期検診が口臭ケアの5本柱
  • マウスウォッシュだけでは根本解決にならない
  • 年齢のせいと諦めず、できることから始めることが大切

口臭に悩んでいる方が一人でも多く、笑顔でマスクを外せる日常を取り戻してほしい——そんな思いを込めて、この記事を書きました。ぜひ、今日から一歩踏み出してみてください。