「入れ歯ってこんなものよね」と、痛みや話しにくさを我慢していませんか。
元歯科医師で、今は歯の話を書いている田島美和です。
入れ歯の違和感には、慣れれば落ち着くものと、調整しないと治らないものがあります。
この記事では、食事と会話の場面で確かめられるチェック項目と、歯科医院への伝え方をまとめました。
先にお伝えすると、1か月たっても続く痛みやぐらつきは、我慢せず調整してもらうのが近道です。
「慣れの途中」と「合っていない」の違い
新しい入れ歯は、使いながら合わせていくもの
入れ歯は、できあがった日が完成ではありません。
日本歯科医師会も、お口の型は正確に採れる一方で、骨の上の粘膜は厚さが均一ではないため、新しい入れ歯では粘膜の薄いところに痛みが出ると説明しています。
実際に使っていただき、当たるところを少しずつ削って合わせていくのが、入れ歯のふつうの流れです。
私が診療していたころも、入れ歯をお渡しした日に「これで終わりですか」とよく聞かれました。
実際には、入れてから何度か調整に通っていただくのが当たり前です。
遠慮して来院されなくなる方のほうが、私にはずっと心配でした。
慣れで落ち着く違和感、調整が必要な違和感
違和感のなかには、お口が入れ歯に慣れることで消えていくものもあります。
見分ける目安にしてほしいのは、使い始めて2週間から1か月ほどたったときの様子です。
| 違和感の種類 | 慣れで落ち着きやすいもの | 調整が必要なことが多いもの |
|---|---|---|
| 異物感 | 口の中が狭く感じる、唾液が増える | 1か月たっても吐き気がする |
| 痛み | 使い始めの数日の軽い痛み | 同じ場所が毎回痛む、傷や口内炎が治らない |
| 話しにくさ | 数週間で気にならなくなる | 特定の音がずっと出にくい |
| 安定感 | 舌や頬の使い方に慣れると落ち着く | 話したり噛んだりするたびに浮く、外れる |
この表は、私の診療経験から作った目安です。
右の列に当てはまるものがあれば、慣れるのを待つより、歯科医院で見てもらうほうが早く楽になります。
食事の場面で見るチェック項目
噛んだときの痛みと、外したあとの歯ぐき
食事中に同じ場所が痛む、噛むとズキッとするので反対側ばかりで噛むようになった、という変化は、入れ歯のどこかが歯ぐきに強く当たっているサインです。
夜、入れ歯を外したら、鏡で歯ぐきを見てみてください。
赤くなっているところや、白っぽくすれているところがあれば、そこが当たっている場所です。
日本補綴歯科学会の補綴歯科なんでも質問箱でも、入れ歯の下の粘膜が広い範囲で赤くなって治らないときは、早めに受診するよう勧めています。
食べられる物が減っていないか
入れ歯が合わなくなると、ご本人も気づかないうちに、硬い物や噛みごたえのある物を避けるようになります。
長寿科学振興財団の口腔機能と栄養では、合っていない入れ歯を使う高齢者は、よく合う入れ歯の方に比べて、野菜や魚介類、たんぱく質やカルシウムなどの摂取量が少ないという報告が紹介されています。
歯科の研究でも、どんな食品が食べられるかを尋ねて噛む力をはかる方法が使われてきました。
ご家庭で確かめやすい食品を、硬さの順に並べてみます。
| 硬さ | 食品の例 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| やわらかい | 豆腐、よく煮た野菜、白身魚の煮付け | ここで痛むなら早めに受診 |
| ふつう | ごはん、ハンバーグ、ゆでたにんじん | 片側だけで噛んでいないか |
| やや硬い | りんご、きんぴらごぼう、ソーセージ | 前より小さく切るようになっていないか |
| 硬い・弾力がある | たくあん、いかやたこ、焼いた肉、ピーナッツ | 噛み切れないまま飲み込んでいないか |
半年前と比べて、下の段の食品を食卓に出さなくなっていたら、それもひとつのサインです。
ご家族の方は、献立がいつの間にかやわらかい物ばかりになっていないか、気にかけてあげてください。
食べかすが入り込む、外して食べている
食事のたびに入れ歯の下へ食べかすが入り込むのは、入れ歯の内側と歯ぐきの間にすき間ができているからです。
ごまやいちごの種が入ると飛び上がるほど痛い、という声を診療室で何度も聞きました。
見落とされやすいのが、「食事のときだけ外している」というケースです。
外したほうが食べやすいのは、入れ歯が噛む道具として働いていない証拠のようなもの。
私も家族の介護をしていたころ、食卓で入れ歯を外していることに気づいたのは、ずいぶん後になってからでした。
会話の場面で見るチェック項目
話している途中で浮く、音が鳴る
笑ったときに上の入れ歯がストンと落ちたり、話している最中にカタカタと音が鳴ったりするのは、入れ歯の吸いつきが弱くなっているサインです。
総入れ歯は、歯ぐきとの間にあるわずかな唾液の膜で吸いつくように留まっています。
形が合わなくなると、この力が落ちてしまいます。
部分入れ歯の場合は、残っている歯にかける金属のバネがゆるんでいることもあります。
話すたびに舌で入れ歯を押さえるくせがついていたら、それも合っていない合図です。
サ行やタ行を聞き返される
「さしすせそ」や「たちつてと」は、舌の先を上の前歯の裏あたりに当てて出す音です。
上の入れ歯のこの部分が厚かったり、前歯の位置がずれていたりすると、息がもれて「し」が「ひ」のように聞こえることがあります。
ご自身では気づきにくいので、周りの反応を手がかりにしてください。
電話で聞き返されることが増えた、お孫さんに「いま何て言ったの」と聞かれた、というのはわかりやすい合図です。
話しにくさは数週間で慣れることが多いものの、1か月以上続くなら、入れ歯の厚みや歯並びを調整すると変わる場合があります。
口元を隠す、話す場を避けるようになった
会話のチェックでいちばん見てほしいのは、実は気持ちの変化です。
話すと入れ歯が動くのが気になって、口元を手で隠すようになったり、集まりに出かけなくなったりしていませんか。
診療室では、こうした変化を「年のせい」とあきらめている方にたくさんお会いしました。
入れ歯を合わせ直しただけで、また人と会うのが楽しくなったとおっしゃる方も少なくありません。
「前は合っていたのに」が起きる理由
歯ぐきと骨は少しずつやせていく
何年も快適に使えていた入れ歯が、あるとき合わなくなることがあります。
これは入れ歯が変わったというより、お口のほうが変わったことがほとんどです。
歯がなくなったところの骨や歯ぐきは、年月とともに少しずつやせていきます。
入れ歯がガタついたり外れたりするのは骨や粘膜が変化して合いが悪くなっているためで、裏打ち(入れ歯の内側に材料を足して歯ぐきに合わせ直す修理)か、作り直しが必要だと説明されています。
あわせて、合わない入れ歯を使い続けると粘膜を傷つけ、骨がやせるのを早めてしまうとも書かれています。
残っている歯や入れ歯そのものの変化
部分入れ歯では、バネをかけている歯がぐらついたり、むし歯で形が変わったりすると、入れ歯全体のバランスがくずれます。
人工の歯も毎日の食事で少しずつすり減り、噛み合わせが低くなっていきます。
体重が大きく減ったあとや、入院でしばらく入れ歯を外していたあとに合わなくなるのも、診療室でよく見てきた例です。
合わないと感じたときの対処
安定剤で済ませる前に歯科医院へ
ドラッグストアの入れ歯安定剤は手軽ですが、合わない入れ歯を使い続けるための道具ではありません。
先ほどの日本補綴歯科学会の質問箱でも、合っていないという理由で安定剤を使うのは誤りで、まず歯科医の診察を受けるよう書かれています。
クッションタイプを自分で敷くと噛み合わせの高さがずれやすく、歯ぐきや骨を傷めることもあります。
入れ歯をきちんと合わせても、歯ぐきが平らで動きやすい方などには、粉末やクリームの安定剤を補助として使うことがあります。
使うかどうかは、歯科医院で相談してから決めてくださいね。
自分で削ったり曲げたりしない
当たって痛いところを、ご自分で紙やすりで削ってしまう方がいます。
部分入れ歯のバネを指で曲げて締め直していた方もいました。
お気持ちはよくわかりますが、削りすぎた入れ歯は元に戻せませんし、バネは折れてしまうこともあります。
痛むときは入れ歯を外して歯ぐきを休ませ、受診の数時間前からは入れておいてください。
当たっている場所に跡が残るので、歯科医がどこを削ればよいか見つけやすくなります。
作り直しを考えている方は、保険の入れ歯には、前回作ってから原則6か月は新しく作れない決まりがあることも覚えておいてください。
作ったばかりで合わないときほど、調整をくり返して合わせていくほうが近道です。
受診のときに伝えたいこと
歯科医院では、「なんとなく合わない」よりも、場面と場所がわかるほうが調整しやすくなります。
受診の前に、次のようなことをメモしておくと安心です。
- どの食べ物を噛んだときに、どのあたりが痛むか
- 話しているとき、笑ったときなど、外れやすい場面
- いつごろから気になりはじめたか
- 安定剤を使っているかどうか
伝え方に迷ったら、こんなふうに言ってみてください。
「右下の奥のほうが、ごはんを噛むと毎回痛みます。2週間くらい前からです」
「電話で話していると、上の入れ歯が落ちてきます。サ行を聞き返されることも増えました」
まとめ
入れ歯の違和感には、使い始めの慣れで消えるものと、調整しないと治らないものがあります。
食事では噛んだときの痛みと食べられる物の変化を、会話では入れ歯の浮きや聞き返され方、そしてご自身の気持ちの変化を見てみてください。
1か月たっても当てはまるものがあれば、安定剤や自己流の修理に頼る前に、今の入れ歯の調整から相談するのがおすすめです。
歯の健康は、歳を重ねてからが本番だと私は思っています。
よく噛めて、気がねなく話せる入れ歯は、毎日の食卓とおしゃべりを支えてくれます。
「こんなことで行っていいのかしら」と迷う必要はありません。
その小さな違和感こそ、歯科医院で聞かせてほしい話です。







